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これからもドイツの科学、テクノロジー、生涯学習などのテーマでレポートを続けて行くつもりですので、新サイトもどうぞよろしくお願いいたします。

医師の代わりに往診業務を行う地域の看護士さん、アグネス(AGnES)プロジェクト

大きな都市には病院や医者の診療所がたくさんあるが、小さな町や村には少ない。そのような場所の住民はお年寄りが多く、体の調子が悪くなっても診察を受けるために遠くまで出かけるのが大変。ドイツにもこうした問題があり、数少ない地域の医師らは多くの患者への対応に追われています。

医師の負担を軽減しつつ、患者に安心できる医療を提供しようと、2005年、グライフスヴァルト大学病院がメクレンブルク・フォアポンメルン州とブランデンブルク州の一部で医療モデルプロジェクト、「アグネス(AGnES)」を開始しました。AGnESとはArztentlastende, gemeindenahe, E-Healthgestützte, Systemische Intervention医師の負担を軽減するための、地域に根付いた、IT技術を使った、全身への医療行為)の略。過去に旧東ドイツで大人気だった、地域の看護婦アグネスの活躍を描いたテレビドラマシリーズ、「シュヴェスター・アグネス(Schwester Agnes)」にちなんで名付けられたというこのプロジェクトは、診療所のスタッフではない地域の看護士が往診業務など、ホームドクターの仕事の一部を請け負うというもの。アグネスプロジェクトの看護士はモバイル機器を使い、患者を担当するホームドクターと音声またはビデオで報告や相談しながら患者の状態のチェック、医師から指示された医療処置、投薬の内容や服用状況のチェック、健康相談まで広範囲の医療行為を担当します。また、患者の健康状態はテレケア機器でモニターされ、患者が自ら測定した血圧や血糖値、体重、眼圧などの健康データは電子データとして医師へと送信される仕組み。

2008年に一旦終了したこのモデルプロジェクトは参加した医師や看護士からも患者からもとても好評で、現在、第二弾プロジェクト「AGnES zwei」を過疎地域だけでなく、都市を含めたブランデンブルグ州全域で実施中です。2014年半ばまでに養成されたアグネス看護士は90名。このプロジェクトでアグネス看護士が使うタブレット用アプリ、agnes zweiの開発にはアグネス看護士らも参加したそうです。

私が住んでいる地域の一般医もこのプログラムに参加しています。以前は、いつ診療所へ行っても待合室が一杯で長く待たなければなりませんでしたが、アグネス看護士さんのお陰で医者の負担が減り、患者も医療を受けやすくなっているなら、こうした形態の医療が今後、さらに充実して行くといいと思います。

参考:

グライフスヴァルト医大HPのプロジェクトページn(グライフスヴァルト医大HPより)

フラウンホーファー研究所、ドイツ・遠隔医療ポータル

ドイツの法定健康保険会社、AOKのサイト

生涯学習の元祖? 英国オープン・ユニバーシティ (The Open University)

日本ではほとんどの人が高校3年生、18歳で進路を決めます。その高校によるのかもしれませんが、大学に進学を希望する場合、たいてい高校在学中に文系または理系のどちらかを選択し、それに応じて選択科目を履修するのではないでしょうか。

自分に合っていそうな学部や学科を選んだつもりでも、いざ大学に入ってみたら、思っていたのと違ったり、後から本当に興味のあることが見つかる人も少なからずいるでしょう。でも、一度入学した大学をやめて別の大学に入り直したり、学部や学科を変わるのも大変だし、、、と諦めてしまう場合が多いのではないかと思います。または、一度大学を出て社会人になってから、勉強してみたいことが見つかったけれど、まさか仕事を辞めるわけにはいかないし、それにもう、こんな年齢だし、、、、と、高等教育を受け直すのはなかなかハードルが高いことです。

私は現在、主に理系分野で英語及びドイツ語の翻訳をしていますが、元々は人文科学・社会科学系でした。日本の大学では英文学、ドイツの大学では文化人類学を学びました。

高校までは理科が大嫌いで、科学など自分にはまったく関係がないと思っていました。

そんな理科オンチの私がどうして自然科学分野の仕事をすることになったのか、その理由についてはここでは省きますが、私が高等教育機関で自然科学の勉強を始めたのは40歳を過ぎてからです。それが可能となったのは、イギリスに住む知人からThe Open University(英国オープンユニバーシティ)の存在を教えて貰ったからです。

オープンユニバーシティは1969年に英国で設立された社会人向けの総合大学です。この大学に関する日本語の情報はほとんどないようですが、こちらのページに概要が掲載されています。

知人に教えられたオープン大学のHPを見て、「これだ!」と思い、ただちに入学手続きを取りました。即決した理由は次の通りです。

  1. 誰でも入学できる。  16歳以上であれば、誰でも登録できます。学歴も国籍も問われません。入学試験もありません。
  2. 自宅にいながら学べる オープンユニバーシティはオンライン大学で、ドイツに住みながらイギリスの大学の講座が受講できます。
  3. モジュールごとの受講 オープンユニバーシティでは学士号・修士号を正式に取得できますが、学位を取らなければならないわけではなく、自分の興味のある講座、必要な講座のみ受講することができ、試験に合格すれば修了証が貰えます。
  4. 自然科学の学位が取得できる オンライン大学は増えて来てはいますが、自然科学を学べるオンライン大学は多くありません。私が勉強を始めた時点では他にはほとんどありませんでした。

自然科学を大学で勉強したいとは思ったものの、不安材料がいくつかありました。一番心配だったのは理系分野の予備知識がほとんどない自分が「授業についていけるか」だったので、モジュールごとに申し込めばよいシステムは気が楽でした。講座一つ受講してみて、あまりに難しければやめれば良いと思ったのです。

さて、「自然科学を勉強する」とは決めたものの、自然科学にはいろいろな分野があります。実は、登録した時点では、自分がそのうちの何を勉強すればいいのか、よくわかりませんでした。生物学にすればよいのか、化学にすればいいのか、それとも、、、、。でも、無理にどれかを選ぶことはないのです。オープンユニバーシティには物理学・生物学・化学・地学を総括的に学べる「自然科学科(Natural Sciences)」という学科があるので、それに決めました。とりあえず広く学んで行って、勉強する過程で自分の方向が決まったら目標を変更することが可能です。また、オープンユニバーシティには「Open Degree」というオプションがあります。これは既存の学科のカリキュラムを履修するのではなく、人文科学・自然科学・社会科学・芸術などのあらゆる分野から自分の好きな講座を自由に組み合わせて作る独自の学位です。

つまり、とても自由度が高いのです。

自然科学科に登録した私は、「難しくてついていけないかもしれないから、とりあえず最初の講座だけ、、、、無理だったらやめる」とおそるおそる最初の講座を受講し始めたのですが、やってみるとこれが面白くて面白くて、やめるどころではなくなってしまいました。

自然科学科の一番最初の講座はExploring Scienceという自然科学総合講座で、物理学・生物学・化学・地学の基礎を幅広く(しかも結構な深さまで)学びます。

教材が送られて来たときには、その量にビックリしました。(教科書8冊とDVD1枚)

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この教科書が良くできていて、1冊目のGlobal warmingで身近な話題を準備体操に、その後、2冊目のEarth and Space(主に地学)から3冊目の物理へ、4冊目の化学、そして5冊めの生物学へと、その後再び地学分野を掘り下げそこから宇宙へ、量子学の基礎へと展開し、最後の地球外生命のテーマへ広がって講座が終わります。これがすべて見事に連続していて、まったく飽きることなく自然科学の基礎を一通り学ぶことができるのです。

この講座の構成には本当に感心しました。そして、この後、各分野の様々な講座を受講し、どれもそれぞれ面白いのですが、この基礎講座に勝るものはないと今でも感じ、自然科学を学ぶようになった自分の原点だと捉えています。

このような機会を経て、今、10代、20代の頃には自分でも想像もしなかった世界に足を踏み入れ、それが仕事に繋がっています。

最近はオープンユニバーシティだけでなく、iTunesUで授業をオンライン公開している大学が増え、CouseraedXなど、年齢や場所や国籍を問わずに学べる機会がどんどん増えていますね。

「やりたかったことがあるけど、今からではもう遅い」と諦めなくても良い時代になってよかったなあと嬉しく思う毎日です。

(イギリスの大学対抗クイズ番組でケンブリッジ大モードリンカレッジとオープン大が対決)

インターネットとシチズン・サイエンス

Citizen volunteers learn water sampling techniques on Mississippi River, 1998. (画像: Wisconsin Department of Natural Resources)
Citizen volunteers learn water sampling techniques on Mississippi River, 1998. (画像: Flickr/Wisconsin Department of Natural Resources)

シチズン・サイエンス、またはクラウドサイエンスという言葉が近頃、よく聞かれるようになりました。

これは、アマチュアが学術研究のためのデータ収集や分析に協力することを意味しますが、インターネットが普及し、大量のデータ収集の必要性がますます高まっていることから、最近、大きな盛り上がりを見せているように感じます。

市民の科学研究への参加は新しいことではなく、そのルーツは19世紀のヨーロッパに遡ります。1883年に大規模な流星雨が降ったとき、ある科学者が新聞を通し、それを観察した市民のレポートを募集した新聞のが始まりだったようです。(詳しくはナショナルジオグラフィックの記事、市民科学の始まり、1833年の流星雨をどうぞ。私が訳しました)

現在、世界の数多くの研究機関がインターネットを通じ、一般市民に研究活動への参加の機会を提供しているようです。

こうした流れの中、ドイツではインターネットが社会をどのように変えて行くかに焦点を当てた研究機関、 Institut Alexander von Humboldt, Institut für Internet und Gesellschaftが立ち上げられ、デジタル化時代の科学研究の変化や今後の可能性について研究が進められています。

ドイツでは、専門家ではないけど科学が好き、何か面白いプロジェクトに参加してみたい、趣味で集めたデータを学問に役立てて欲しい。いろいろな動機で科学研究に参加してみたい市民と研究機関を繋げるためのプラットホーム、Bürger schaffen Wissenが様々なプロジェクトの情報を提供し、市民の参加を支援しています。

たとえば、、、、

「環境保護のためのダイビング」 ダイビングしながら水系生態系のデータを集める

「地学ウィキ作成プロジェクト」 地元の地形や地質観察データを集めてマップ作り

「アニマルトラッキング」    野生動物の移動ルートを調べる

「enviroCarプロジェクト」  乗っている車の環境負荷をアプリで測定

「子どもの成長観察プロジェクト」乳幼児の身体的発達を保護者が観察し、データを提供する

など、面白そうなプロジェクトが盛りだくさん。

ドイツのサイエンスコミュニケーションポータル、Wissenschaft im Dialogのサイトに前述のInstitut für Internet und Gesellschaftのプロジェクトの一つ、「Open Science」を率いるSascha Friesike氏のインタビューが掲載されています。インタビューの中でFriesike氏はシチズンサイエンスの可能性についてこのように語っています。(翻訳: ChikaCaputh)

(前略)科学者と市民が手を結べば、科学者は市民の持っている特殊な知識を得たり、データ収集や分析に協力してもらうことができ、また、市民は学術研究に直接関わり、一次情報を得ることができます。科学者がボランティアをタダ働きさせるだけではないかという批判がありますが、私はそうは思いません。市民はそんなに科学者に都合よく動いてはくれませんよ。シチズン・サイエンスはむしろ、お互いの興味を満たす手段なのです。

我々のプロジェクトでは、シチズン・サイエンスが成功するための条件について研究していますが、クラウドソーシングの観点からはこれまでに既に市民参加の動機について、  Partizipationsstudie 2014 „Online Mitmachen und entscheiden“等、いくつかの研究結果が発表されています。大雑把に言うと、動機は以下の3つに分けられます。1)楽しそうだから 2)結果に関心があるから 3)参加することで周囲に認められるから、または参加することで学ぶことができるから。

(中略)

市民が研究プロジェクトに参加する動機を研究するうちに、多くのプロジェクトが科学者のサポートなく立ち上げられていることに気づきました。市民科学者はメディアでは科学者の弟子のような書かれ方をすることが多いです。実際、科学者のお手伝いという性格のプロジェクトもたくさんありますが、それだけではありません。 市民が自ら特定のテーマに大きな関心を持ち、同じテーマに関心を持つ人たち同士がインターネット上で集まることも多いのです。そのようなプラットフォームにいつしか膨大な量のデータが蓄積され、そこで初めて科学者がそのデータの意義に気づくのです。たとえば、 愛鳥家の収集したデータから気候変動に関する重要な知見が得られています。

しかし、シチズン・サイエンスは科学者が参加して初めてサイエンスになるのではありません。重要なのは、知識が生まれるということです。以前であれば、どこかの地方の同好会等にひっそりと蓄積されていただろうデータがインターネット上のプラットフォームを通してオープンになり、互いに繋がるのです。シチズン・サイエンスという言葉がよく聞かれるようになったのは、それが大きいと思います。

(中略)

アマチュアの研究というと、以前は鼻で笑われることが多かったですが、今では科学者はアマチュアの仕事にとてつもない価値を見い出しています。ですから、今日、市民と科学者は互いに尊敬しあい、支え合うことができます。市民と科学者が連携することによって、科学者の仕事についての市民の理解が深まります。(後略)

科学が日進月歩で発展して行く中、「科学オンチでさっぱりわからない〜」と置いてけぼりにされたような気になる人が多いのではないでしょうか。でも、自分の好きなこと、いつもやっていること、それが「科学」を生み出すのかもしれないと考えると、ちょっとワクワクしませんか?

参考:

Citizens Create Knowledge (From the website of Bürger schaffen Wissen – Die Citizen Science Plattform)

Everyone is a scientist (From the website of the Alexander von Humboldt  Institut für Internet und Gesellschaft

Open Science (From the website of the Alexander von Humboldt  Institut für Internet und Gesellschaft)

Wissen und Forschen im digitalen Zeitalter – Gespräch mit Sascha Friesische (From the website of Wissenschaft-Im-Dialos.de)

糖尿病性神経障害を早期発見できる足パッチ、Neuropad

世界中で増え続ける糖尿病患者。

糖尿病があると毛細血管の血流が悪くなり、それが悪化すると合併症として手足に糖尿病性神経障害(DNP)と呼ばれる症状が現れます。この神経障害は重症化すると、足の神経が麻痺して怪我をしやすくなり、潰瘍ができたり壊疽を起したりするため危険です。

しかし、糖尿病性神経障害の症状は患者により個人差があり、ほとんど自覚症状のない人もいるため、発見が遅れ、適切な治療をしないまま放置されることも少なくありません。

糖尿病患者にDNPが生じているかどうかを調べるためには、通常、タッチテストという検査をします。これは患者を寝台に寝かせ、上半身と下半身をカーテンで区切った上で医師がモノフィラメントという細い糸で患者の足に触れ、触ったのを感じるかどうかを訊ねる方法です。しかし、この検査では、触っていないのに患者が「触られたような気がする」ことが生じたりなど、客観的とはいえません。

そこで、より簡便で客観的なテストとして開発されたのが、この足パッチ、TRIGOcare InternationalのNeuropadです。

(画像提供: Sanofi Aventis Deutschland GmbH)
(画像提供: Sanofi Aventis Deutschland GmbH)

健康な人は通常、特に運動などをしなくても足から少しづつ発汗していますが、神経障害が生じると、発汗のためのシグナルが正常に発せられなくなるため、足に汗をかかなくなるそうです。この足パッチを貼ることで、正常な発汗があるかどうかを見ることができます。

使い方はとても簡単。

靴、靴下を脱いで数分間、足を乾かしてから両足に1枚づつ青いパッチを貼り、10分間放置します。

正常な発汗があるとパッチはピンク色に染まります。発汗がないと青いまま、色は変わりません。部分的にピンクになったり、まだらになる場合には神経障害が起こり始めているサインとなります。

健康な足(画像提供: Sanofi-Aventis Deutschland GmbH)
健康な足(画像提供: Sanofi-Aventis Deutschland GmbH)
発汗障害を起こしている足(画像提供: Sanofi-Aventis Deutschland GmbH)
発汗障害を起こしている足(画像提供: Sanofi-Aventis Deutschland GmbH

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簡単で安全なので、患者によるセルフテストも可能なのが画期的ですね。

発汗が行われなくなることで足の皮膚が乾燥してしまう患者用に、同じ会社からこんなフットリペアフォームも販売されています。私は糖尿病患者ではないのですが、旅行で砂漠地帯に行ったときに乾燥が原因でほんの数日で踵にヒビが入ってしまったことがあり、そのときにこのフットリペアフォームを使ってみました。とても効果が大きく、翌日にはもう良くなっていました。(個人差があるかもしれません)

Neuropadはドイツでは製造元のTRIGOcare International GmbHおよびSanofi-Aventis Deutschland GmbHが販売しています。お問い合わせはこちらから。

(情報提供: Sanofi-Aventis Deutschland GmbH)

ライフサイエンス分野で市場をリードするナノテク企業、PolyAnを見学

戦後、東西に分断されていたこともあり、西側の主要な都市と比較してあまり産業が発達していなかったドイツの首都、ベルリンですが、この数十年、いくつかの産業分野において企業や研究所のクラスターがベルリンおよびその周辺地域に形成され、基幹産業として急激に発展しています。中でも発展目覚ましいのがライフサイエンス分野。現在、数多くのバイオテクノロジー企業や製薬会社、ヘルスケア関連企業などがベルリンに集まって来ています。

今回、機会を得て、急成長中のバイオテクノロジー企業の一つ、ベルリン、パンコウ地区にあるPolyAn社を訪問して来ました。

同社のCOO、Lechhart氏は一個人の訪問を快く受け入れてくださり、会社の概要や製品についてわかりやすくご説明頂いた後、ラボも見学させて頂きました。

PolyAn社は1996年の創立以来、特殊な表面工学技術を使ってライフサイエンス分野の研究や医療検査で使われるバイオアッセイの基板やマイクロ粒子を開発しているナノテクノロジー企業です。微量で濃度の低い検体を扱い、複数のパラメーターについて短時間の検査が要求される医療検査やライフサイエンス分野の分析試験において、高感度のアッセイ基板の必要性はますます重要となっています。PolyAn社製のマイクロアレイスライドや96ウェルプレートは非常に高感度であるため、ドイツだけでなく欧州市場においてトップクラスのシェアを獲得しており、また北米・アジアでも広く使用されています。

同社が最初に開発した製品は、表面を特殊加工したマイクロアレイスライド。下の写真のようなプラスチック製またはガラス製のスライド表面が特定の生物分子と結合するバイオセンサーを含むナノゲルでコーティングされています。

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スライドの四角い部分にバイオセンサーが配置されている。
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PolyAn社製マイクロアレイスライドの表面構造(画像提供:PolyAn)

 

ナノゲルは上の図のような立体構造をしています。木のような構造の先についている赤い玉が特定の生物分子と結合する官能基で、検体中のターゲット分子と結びつくことでバイオセンサーとして働きます。それよりも小さく数の多いグレーの玉は、検体中に含まれるターゲット分子以外の分子がセンサーに付着しないようにするためのアンチファウリングコーティングというもので、これがノイズを低減させ、センサー感度を高めます。

PolyAnのマイクロアレイスライドは医療診断用の低密度スライドから血漿スクリーニング用の非常に高密度のスライドまで幅広く、様々な用途に使われています。特に多く使われている分野は、子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウィルス(HPV)の検査だそうです。また、「CarnoCheck」と呼ばれる加工食品中の肉のDNA分析等にも使われています。

もう一つの主製品はビーズとも呼ばれるマイクロ粒子で、PMM(ポリメチルメタクリレート)のコアの表面に上述のスライドと同様のナノゲルを付着させたもの。一枚のマイクロアレイスライドに化学的性質の大きく異なる多くのセンサーを配置することは難しいため、スライドは性質が違いに似た分子の大量分析には適していますが、性質が大きく異なる分子の分析にはあまり向きません。また、分析検査によってはスライド全体を使用する必要のないものもあります。そこで、特定のセンサーを埋め込んだ個々のビーズを組み合わせて使うことで、効率良く分析を行うことができるのだそうです。ビーズコアの中には様々な蛍光色素が埋め込まれ、それがターゲット分子と反応するとビーズ表面にコロナが発生して明るく光ります。(下の図を参照)どのビーズに反応があったかを見ることにより、検体にどの生物分子が含まれているかを知ることができ、また反応の強さ(明るさ)から検体中の分子の濃度を計算できます。

PolyAn社製マイクロ粒子の表面構造(画像提供:PolyAn)
PolyAn社製マイクロ粒子の表面構造(画像提供:PolyAn)

 

 

マイクロ粒子の入った液体。
マイクロ粒子の入った液体。
ビーズの周囲に発生したコロナ(画像提供: PolyAn)
ビーズの周囲に発生したコロナ(画像提供: PolyAn)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーズの反応を見るラボ技師さん
ビーズの反応を見るラボ技師さん

PolyAn社はまた、蛍光イメージング機器用校正アプリケーションも開発製造しています。PolyAnの蛍光色素は下のグラフで明らかな通り、非常に安定しているため、長期間に渡って高品質が保たれます。

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上から赤、オレンジ、緑のグラフがPolyAnの蛍光色素(画像提供:PolyAn)

さらに、PolyAn社は業界において最も幅広い製品ポートフォリオを用意しているだけでなく、顧客のニーズに応じたカスタマイズサービスも提供しています。

1時間に渡る訪問の間にまだまだたくさんお話しを聞かせて頂き、お土産に資料も頂きました。とても興味深く、勉強になりました。

PolyAnのテクノロジーや製品についてご興味のある方は、こちらから直接PolyAn社に英語でお問い合わせ頂くか、以下の日本での輸入販売元へお問い合わせください。

日本での販売元:

CytoTechs, inc.
3628-46 Kandatsu-Cho,
Tsuchiura city, 300-0013 Japan
Tel: 029-834-7788
Fax: 029-834-7772
Cellular: 090-7012-7478
E-mail: j.iijima@cytotechs.com

エネルギー自給村、フェルトハイムの学習センター

ドイツ初の、そして今のところ唯一の「エネルギー自給村」としてドイツ国内はもとより、世界中から注目を集めるブランデンブルク州フェルトハイム村は、首都ベルリンから南西におよそ70kmに位置しています。

人口約130人、面積15.7km2の小さなフェルトハイム村が再生可能エネルギーによるエネルギーの100%自給を実現したのは2010年。村で栽培するトウモロコシや穀物から出る有機ゴミを燃料としたバイオガス装置、43基の風力タービン、そして45ヘクタールのソーラーファームにより、電力・温水を自給するだけでなく、村独自の送電網を持つまさに「サステイナブルな村」として現在ではドイツ国内で最も重要なエコツーリズム拠点の一つ。世界中から多くの視察団が訪れています。

また、フェルトハイム村は「Neue Energie Forum Feldheim(ノイエ・エネルギー・フォーラム・フェルトハイム)」という再生可能エネルギーに関する学習センターを設け、フェルトハイムのこれまでの経験やエネルギー自給ノウハウに関するプレゼンテーションや中高生を対象とした学習会などを提供しています。2週間ほど前、準備中だった展示ルームが完成しました。

展示は毎週、木曜日の10:00 〜12:00および13:00〜16:00まで無料で閲覧できるとのことで、見学に行ってきました。私の自宅からは車で45分ほど。

フェルトハイムの再生可能エネルギー学習センター
フェルトハイムの再生可能エネルギー学習センター

ドアに鍵がかかっていたので不安になりましたが、呼び鈴を鳴らすと、隣の建物から女性が出て来ました。「展示を見せて頂きたいのですが」と言うと、「あら、あなた達が第一号!」と言いながらセンターのドアを開けてくださいました。

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展示ルームは小さいのですが、フェルトハイム村のモデルが置かれ、エネルギー自給に至った経緯、それぞれの設備の説明などを英語とドイツ語で読むことができます。

展示によると、村は最初からエネルギー自給を目指したわけではなく、住民によるステップの積み重ねが村を再生可能エネルギーの村へと導いて行ったとのこと。1995年に当時まだ大学生だった村の住民、ミヒャエル・ラッシェマン氏が他の住民の許可を得、4基の風力タービンを建設したことから始まりました。2006年には風力タービンは43基となり、2008年にバイオガス設備およびソーラーファームを建設、さらに2009年から2010年にかけ木材チップボイラーを設置。2015年現在は安定した電力供給を保証するため、蓄電施設を構築中です。

展示ルームから裏庭に出ると、風力タービンが展示されていました。

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羽がついていない状態です

なんと、タービンの中に入らせて頂きました!

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羽根を取り付ける部分

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これが羽根

学習センターのすぐ裏にバイオガス設備と木材チップボイラーがあります。

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木材チップボイラー
木材チップボイラー
このチップを使う
このチップを使う(クリックで拡大します)

その後ろは43基のタービンが並ぶ風力パーク。

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過去20年ほどの間、次第に過疎化していたところを再生可能エネルギーで見事、村興しに成功したフェルトハイム村。ノイエ・エネルギー・フォーラムの学習センターは今後さらに学びの機会を提供してくれそうです。

フォーラムではそれぞれの視察団のニーズに応じたガイドツアー(有料・要予約・英語もしくはドイツ語)を提供しています。予約はフォーラムHPのガイドツアーページ(英語)からできます。

視察の際の日本語への通訳、承ります。(お問い合わせはc.kietzmann@t-online.deまで、お気軽にどうぞ)

クラウドファンディングによる凧発電 in Berlin

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(画像: EnerKite)

ドイツの風力発電能力は現在、世界第3位(1位中国、2位アメリカ)です。風力発電といえば地面に固定した大きな羽根のある風力タービンを思い浮かべますが、今回はクラウドファンディングによる面白い再生可能エネルギープロジェクト、EnerKíteをご紹介します。

 

ベルリンのスタートアップ会社EnerKíte GmbHによるこのプロジェクトは200mを超える上空に揚げたカイトが集める強い風のエネルギーを利用し発電するというもの。一般の風力発電タービンよりもずっと高い位置まで揚げるため、発電量は固定型のタービンの倍、そして建設のための材料費を90%も削減できるという画期的なアイディアです。その結果、なんと1キロワット時あたりわずか4セントという安価な電力の供給が実現できる見込みだそう。

去年(2014年)末に実施されたデモ装置 EK30のテスト飛行では74 時間の長時間飛行に成功し、これまでに実施された合計100時間のテストフライトからその実力が注目されています。

 

凧を使えば、通常の風力タービンよりも効率良く安価な電力を供給できる
Enerkite装置と通常の風力タービンとの比較。高度が上がるほど風は強くなる。(出典:EnerKite)

EnerKíteはヨーヨーのように伸びたり縮んだりする2つのフェーズで作動します。パワーフェーズではカイトの羽根は風を横切るように飛行し、リカバリーフェーズではエネルギーをできるだけ消費しないよう、滑らかに素速く元の地点に戻るように設定されているそう。カイトが集めた風力エネルギーは地上ステーションのタービンで電力に変換されます。

EnerKiteの原理
EnerKiteの原理(画像: EnerKite)

EnerKiteは全自動で、雨や雪の日にも飛行が可能だそうです。

 

高度100〜300mを飛ぶデモ装置、EK30のカイト表面積は15〜30㎡、重量は5〜10kg。公称発電量は30kw。

2015年中に商品化完了を目指しており、2016には最初のパイロット装置が稼働する予定だそうです。市場導入はタイプEK200については2017年、EK1Mは2018年をターゲットとしています。

このクラウドファンディングには個人が一口100ユーロから投資できるので、気軽にプロジェクトに参加してみるのも良いかもしれません。(プロジェクトに関するお問い合わせは、EnerKiteのHPからどうぞ)

ベルリンのeモビリティ 

2020年までに電気自動車の普及台数を百万台に上げることを目標に掲げているドイツ政府は、「Schaufenster Elektromobilität(eモビリティ ショーウィンドープログラム)」と名付けられた電気自動車普及推進プログラムにおいて国内の4つの地域の取り組みを「ショーウィンドー」に指定し、助成しています。

ショーウィンドーに選ばれた取り組みは、以下の4つ。

ベルリン・ブランデンブルク州のInternationales Schaufenster Elektromobilität

バーデンヴュルテンブルク州のLiving Lab e-BWe mobil

ニーダーザクセン州のUnsere Pferdestärken werden elektrisch 

バイエルン・ザクセン州のElektromobilität verbindet

このうち首都圏ベルリン・ブランデンブルク地域のInternationales Schaufenster Elektromobilitätはドイツ国内にとどまらず国際的モデルプロジェクトとなるべく、2013年よりおよそ8300万ユーロの融資を受け、約30のコアプロジェクトを中心に産官学連帯で進められています。2015年までに電気自動車普及台数4000台、2025年までに1600箇所に公共の充電ステーション設置を目標としていますが、この取り組みは電気自動車と充電インフラの拡大だけでなく、公共交通機関におけるeモビリティ推進からeモビリティに関する教育、eモビリティに適した都市インフラの整備、eモビリティに関する情報ネットワークの構築に至るまでの多角的統合的なスマートシティの実現が目的。Berlin Agency for Electromobility (eMO)が全体で約100のプロジェクトを結びつけるコーディネイトに当たっており、ベルリン・ブランデンブルク地域のeモビリティの情報窓口となっています。

映画館で流れるプロモーション動画。(eMOのHPより)

ベルリン市街では電気を動力とする乗り物をよく目にするようになって来ました。たとえば配達サービス用のeカーゴや企業の宣伝やイベント用のeTukTuk、レンタルeスクーター。2012年にはドイツで初めてのeカーシェアリングサービスも始まっています。

また、9月からはベルリン、ツォー駅から出ているバス路線204番のルートを電気バスが走行する予定。それに合わせ、全国初のコードレス充電ステーションが稼働します。路線上の二箇所の停留所、HerzalleeとSüdkreuzの地面に埋められた5X2mの充電プレートの上にバスが停まると、電磁誘導方式で自動的にバスが充電される仕組み。電動歯ブラシの充電の要領ですね。充電時間は4分〜7分。ちなみに充電器の上に人が立ったりしても、危険はないそう。(充電ステーションの図はこちらをご覧ください)この電気バスおよび充電ステーションの稼働により、二酸化炭素の放出を年間約260トン削減できる見通しです。

首都ベルリンのeモビリティ。今後の動きに注目しています。

ベルリンのeモビリティ研究開発拠点の一つ、EUREFキャンパスの充電ステーション
ベルリンのeモビリティ研究開発拠点の一つ、EUREFキャンパスの充電ステーション
ドイツ鉄道(ドイチェバーン)のレンタルeバイク
ドイツ鉄道(ドイチェバーン)のレンタルeバイク
レンタルeスクーター、eMio
レンタルeスクーター、eMio

参考:

http://www.emo-berlin.de/de/

http://berlindustrie.de/allgemein/e-bus-berlin-im-sommer-gehts-los/

ドイツの地熱エネルギープロジェクト バイエルンの例

脱原子力に向けて官民が一体となり取り組むドイツでは、全国各地で多くの再生可能エネルギープロジェクトが積極的に進められています。

特に盛んなのは太陽光発電や風力発電で、その大きな成果はすでに日本へも紹介されていますが、私が注目しているのは地熱利用のプロジェクト。地熱利用といえば火山国であるアイスランドが良い例として挙げられますが、火山のないドイツにおいて地熱エネルギーがどのように利用されるのか、どのくらい利用できるのか、利用にはどんなハードルがあるのか、とても興味があります。

2003年に発表されたドイツの地熱利用に関するレポート”Möglichkeiten geothermischer Stromerzeugung in Deutschland”によると、ドイツにおける地熱エネルギー利用の技術的ポテンシャルは、国内の電力需要の600倍、温水需要の1500倍だそう。天候に左右される太陽光や水力エネルギーと異なり、地熱エネルギーは基本的に年間365日、1日24時間利用可能(年間平均フル稼働時間は8300時間で、風力の1700時間、太陽光の910時間をはるかに上回ります)なのが大きなメリットですね。

地熱を温水供給や発電に利用するためには、地下から組み上げる温水の温度が最低120℃あることが条件で、ドイツ国内でこの条件を満たす地域は北ドイツ低地(Norddeutsche Becken)、ライン地溝帯(Oberrheingraben)そして南ドイツのモラッセ帯(Molassebecken)の3つ。このうちのモラッセ帯の地熱を利用するため、2010年にバイエルン州レーゲンスブルク市にて再生可能エネルギー会社、FG Geothermie GmbH  が設立されました。その子会社Geokraftwerke.de GmbHにより現在、バイエルン州内の5つの地域(Kirchweidach, Schnaitsee, Gars am Inn, Seebruck, Amerang)で地熱発電・温水利用プロジェクトが進められています。

その中で最も進んでいるのは2010年11月にボーリングが開始されたKirchweidachのプロジェクト。このプロジェクトでは周辺の30の自治体へ電力が供給されるだけでなく、発電後の温水が地域の農業に活用されています。2013年より現地の農産業企業、Gemüsebau Steinerの約12ヘクタールの温室への温水供給が始まりました。それまでの天然ガスや石油から地熱利用へ完全に切り替え、現在では毎日およそ20トンのトマトやカラーピーマンを二酸化酸素を放出しない環境負荷の小さな方法で生産しています。このプロジェクトだけでバイエルンのトマトの地産地消率は8%から15%へとほぼ倍増。年間日照時間の少ない南ドイツはトマトの栽培に適しているとは言えず、消費されるトマトの多くがスペインなどの遠方から運ばれて来ますが、その運搬の過程で排出される二酸化炭素も大幅に削減することができます。

また、ドイツにおいて地熱エネルギープロジェクトは、魅力的な投資の機会としても注目されています。個人も1000ユーロからプロジェクトに出資可能。プロジェクトに参加すると、年に一度、詳細なレポートが送られて来るので、投資をしながらドイツにおける再生可能エネルギーの取り組みについて学ぶこともできます。

関連動画:

Kirchweidach地熱プロジェクト Part 1 (ドイツ語)

Kirchweidach地熱プロジェクト Part 2 (ドイツ語)

バイエルンのトマトとパプリカ(ドイツ語)

参考資料: GEOKRAFTWETKE.de Jahresbericht 2013-2014 (プロジェクトの最新レポート)こちらからダウンロードできます